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冬には冬のビール

ビールは「夏の酒」というイメージがありますが、ビールが夏の飲み物になったのは、その長い歴史の中ではむしろ最近のことといえるでしょう。

19世紀に冷蔵技術が確立されるまで、ビールは日本酒と同じように「寒仕込み」が主流でした。夏の間は腐敗のリスクが大きかったからです。

現在でも古いビールの製法を引き継ぐ、ベルギーの「ランビック」。このビールの仕込み時期は、今でも冬の間のみです。夏休みに見学に行っても、発酵・熟成途中の樽しか見ることができずに拍子抜けします(笑)。

「セゾン」という、やはりベルギーのビアスタイル(ヤッホー・ブルーイングの「僕ビール、君ビール。」で名前が広まりました)は、夏のために造られました。しかし、仕込み期間は冬です。しかも乳酸発酵を取り入れたり、ハーブ・スパイスで風味を付けたりして、飲用可能な時期を延ばしています。「セゾン」とはフランス語で「季節」を意味するのですが、その季節とは夏。わざわざ夏に飲むビール、というのが名称になるほど、夏にビールを飲むのはリスキーだったということになります。

また、今年500周年を迎えるドイツ・バイエルンの「ビール純粋令」では、夏期間の価格の方が高く定められていました。これも、冬の方がビールが造りやすかったからかもしれません。(※9月から4月までを醸造期間と定め、オクトーバーフェストで樽を開ける…という話だと思っていたのですが、改めて条文を確認すると、醸造期間に関する規定はなかったのでした)

ドイツの「ドッペルボック」やベルギーの「トラピストビール」は、修道僧が冬の断食のときに「液体のパン」として飲むことが許されたビールを起源としています。キリストが復活したことを祝うイースターまでの40日間を「四旬節」(プロテスタントでは「受難節」)と言いますが、その時期は断食をしてキリストの受難を追体験します。その期間中でも、ビールを造っていた修道院では、特に濃厚なビールを「液体のパン」として飲むこと(正確には「食べる」でしょうか)が許されました。



修道院醸造所を起源とする、ドイツのパウラーナー社のドッペルボックには、「サルバトール(救世主)」という名前が付けられています。受難をしている修道士たちは、このアルコール度数の高いビールで身体を温め、栄養を取り、まさに彼らの救世主だったわけです。ドッペルボックは修道院内の秘蔵ビールだったのですが、このサルバトールをきっかけとして門外に広まりました。その影響で、ドッペルボックの製品名には語尾に「〜or」と名付けられるのが通例となっています。アインガー社の「セレブラトア(Celebrator)」という名前も、その例にちなんでいます。




今年のイースターは3月27日。つまり2月18日から四旬節に入ることになるのでしょうか(数え方が間違っていたらすみません)。この時期に、敬虔なキリスト教徒を忍びながら、ぜひこれらのビールを飲んでみてください。


 
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