昨日、「<スコッチ文化研究会>札幌支部」の大人の遠足に参加して、ニッカの余市蒸留所へ行ってまいりました。
余市の蒸留所見学は今年3回目、通算するともう20何度目かです。
今回は、「スコ文研」の特別拝観で、杉本工場長自らのご案内付でした。「通算20何度目」と書きましたが、それだけ来てもこれまで一度も入れなかったところへついに!入れまして、個人的には感涙モノの工場見学でした。
ウイスキーの製造工程はある程度ご存知であることを前提に、以下記します。また、これはあくまでも「特別」なもので、通常の見学コースではここまでは見学できないことをあらかじめお断りしておきます。
まずは、通常では入れない「貴賓室」(正門の真上にある)でニッカの歴史を聞くところからスタート。来週(2014年9月)からスタートするテレビドラマ「マッサン」は、この創業者・竹鶴政孝の伝記をベースとしています。
正門をくぐってすぐにあるキルン塔(後述)の写真は数ありますが、このアングル(上)の写真は珍しいと思います。
元、重役会議室だったというこの部屋には、数々のお宝があります。中でも面白かったのは、南極条約締結前に観測隊の人から寄贈されたという南極の石(現在は条約の規定で、南極の一切のものを持ち出すことが禁止されています)。かつて南極でも飲める(凍らない)ウイスキーが欲しい、というリクエストで開発をしたお礼だそうです。実際に50%を超える度数のウイスキーを製造したのだそうです。
これを撫でると「難局」を乗り切れる縁起物だそうです。
そしてヘルメットを被り、工場見学へ。
まずは入り口そばにある、ウイスキー蒸留所のシンボルである「キルン塔」(乾燥棟・最初の写真)。麦芽をピート(泥炭)で乾燥させてスモーキーな香りを付ける施設で、ヘビータイプのウイスキーを作る余市蒸留所には欠かせない場所です。
今は麦芽自体がスモーキーに出来上がったものを使っているため、この施設はもう基本的に稼働しておらず、年間30回程度しか動かないそうです。そのため、これまで何度来ても入れないところの一つで、ここに入るのが一つの「夢」だったのですが、ついに念願叶ったという次第です。
内部は真っ暗だったので、写真はないです。とても狭く、これは見学コースに含めるのは難しいな、と思いました。中は煤煙の香りで充満しています。壁も煤だらけ。稼働していると、服に着いた臭いが丸1日抜けないそうです。ピートの現物もあって、実際に触らせていただきました。
今回は石炭をたく1階部分のみの見学で、実際にピートを焚きつける、上層の乾燥部屋には入れませんでした。残念ではありましたが、まぁ生きているうちに一度は入れるのではないか(笑)。というか、まだ未知の部分を残しておきます。だから何十回来ても、ここは見飽きることがないのです。
続いて破砕室と糖化室。前者で麦芽を破砕し、その破砕した麦芽をお湯に漬けて甘い麦汁を取ります。ここで糖化する麦汁を見るのはたしか2度目(相当昔は、らせん階段のところから見学できた)ですが、内部まで見たのは初めて。今は三番麦汁を作っているところでした。ビールのインフュージョン法のような複雑な温度管理はせず、67度程度をキープするのみ、だそうです。
ただし「清澄」な麦汁であることがとても大切で、濾過して出てくる麦汁も、最初の濁った部分はまた槽に戻して取り直すのだそうです。
隣にガラスで仕切られた部屋があり、そこは酵母室。培養中の酵母も窓越しに見学。糖分の食い切りが良い、専門のディステラリー酵母だそうで、独自の酵母バンクも持っているそうです。
建物を移り、発酵槽へ。甘い麦汁に酵母を添加し、アルコール発酵を行います。この発酵タンクはいつもはガラス越しですが、今日は内部に入れて見せていただきました。大きなタンクが10数本。30℃前後で5日間発酵。度数は7〜8%。「もろみ」は甘みと酸味がある味となるそうです。
そして蒸留所の心臓部、蒸留機。しめ縄のついたポットスチルの写真はネットにもゴロゴロありますので割愛します(笑)。(
「余市 ポットスチル」で画像検索してください)
ここの最大の特徴は、石炭で加熱すること。本場スコットランドでも全廃され、世界的に大変貴重なポットスチルです。ただし「世界唯一」かどうかは不明とのこと。なぜなら、インドあたりにもしかしたら残っているかもしれないが未調査(調べさせてくれとお願いしているがウンと言われないw)とのことでした。
そのほか、これまで蒸留所へ来てもわからなかったことを、ここぞとばかりに訊きまくってきました。
木樽は現在栃木工場で作っていて余市では修繕とリチャーしかしないこと、竹鶴像の向こう側に立っている高い細い塔が給水塔であること、開放されている1号貯蔵庫の樽の中は安全のため空にされていること。このあたりは通常の見学ではわからない事柄だと思います。
最後はもちろん、試飲。無料試飲上の下の「応接室」での試飲でした。
ここで出されたのは、「未熟成(0年)原酒」「余市ピーティ&ソルティ」「余市シェリー&スイート」「余市ウッド&バニリック」「竹鶴21年」の5種飲み較べでした。
未熟成(0年)原酒(ニューポット)を久々に飲みました。少なくとも今年GWまではまだ販売していたのを見たのですが、見学来場者が急増し、現在は販売停止しています。
数年前に飲んだ時は、未熟成の焼酎っぽいというかキツイだけのアルコールという印象が強かったのですが、今回は果実香が印象的で、加水すると麦芽の味も優しく感じられる味わいのあるお酒となっていて、とても「あぁ、やっぱりウイスキーの原酒だなぁ」という感じがしました。原酒自体の味も日々向上しているのですね。これが10年後どういうウイスキーに化けるか、ということを考えただけでワクワクします。
竹鶴政孝は、「環境がウイスキーを作る」という信念の元、自分が修業したスコットランドに気候・風土が似ているこの余市を選んで、蒸留所を造りました。ちょうど80年前のことです。私もスコットランド・アイラ島へ行ったことがありますが、たしかにかの地(とくに竹鶴も修業したキンタイア半島の風景)は、北海道と似ている雰囲気がありました。そんな風土を肌で体験できる余市の蒸留所見学は、日本でウイスキーを飲むうえで極上の楽しみのひとつなのではないか、とさえ思います。
ところで先日、3代目マスターブレンダーである佐藤茂夫氏のセミナーに参加した時に知ったのですが、ウイスキーの生産量は1983年(昭和58年)がピークで、実は今はピーク時の4分の1程度の生産量なのです。発酵槽も、「昔は24時間フル稼働だったが、今は1日1仕込み」と仰っていたのが印象的だったのですが、逆に言えばまだもっと稼働できる余地はある、ということですね。
もちろんウイスキーは最低3年以上の年月がかかる(実際にはもっとかかる)ので、ビールのようにはホイホイとできないのが痛いところではあります。さらに、これから起こるはずの「ウイスキーブーム」で在庫がなくなり、変なプレミアム化などを生まなければいいな、という心配もありますが、それでも今後ウイスキー好きが一層増えてくれればいいなと思います。
というか、道民はもっとニッカを飲みましょうよ! もちろん当店で!(^o^)